チャリを漕いでると、浮浪者がそこらじゅうに向かって延々叫んでいた。
「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!」
チャリですれ違いざま、大声で叫べる瞬間はここしかないと思い、叫ぶ。
「だらっしゃぁああああ!」
台風が来るってニュースでは言ってたが、今小雨だ。このまま降らないといいんだけど。
おれの声は、浮浪者に届いてなかった。
わ た し を み つ け て!
中目黒駅を通りすぎようとした。時間は、2時34分だった。
女性が一人居た。明らかに、時間が過ぎるのを待っていた。
チャリを止めて、声をかけた。
「ねえ。誰か、待ってるの?」
「うん。」
「すぐ来るのかな。よし、じゃあ10分だけ面白いこと言いながら一緒に待っていいですか?」
「何それ。」
彼女が笑った。中目黒のbarに連れて行った。
聞くと、人材系の会社で働いてるんだと言う。
なので、自分も人事系の会社を作ったと言ってアンチェインの名刺を見せた。
自分は、こういう時は自分のことを質問された時にだけ自分のことを話すようにしてる。
「ひろやさんは、どういう社員だったの?すごく出来る人だった?頭良さそう。」
「いや、サラリーマンの時は全然仕事してなかったですよ。ほとんどの仕事を断るか、請けて出来ませんでしたって怒られるか、新卒に投げるかでした。」
「フリーライダーだったんだ…。」
「へえ。窓際族のことをフリーライダーって言うんですね。初めて聞きました。」
「ひろやさんがそうなっちゃったのも、組織が悪かったのかもね。部下とか持ったことは?」
「無いですよ。1回も。絶対に無理です。本当に仕事をしないといけない時は、一番出来る人をアサインさせて、ささっと終わらせます。それか、何だっけ?フリーライダーでしたから。」
「そうなんだ。でも、協力するってすごく楽しいんだけどな。」
彼女は少しだけ悲しそうにした。
「今、35歳なんですけど、今は実はチームで動いてます。これまでは、あまりチームワークを感じることが出来てなかったんですが、今はそうじゃないです。全員がフリーランスの集まりで、みんなプロで、しかも商材の都合上、みんなで協力することが前提の組織でやってます。多分、初めてです。」
「そう。よかったです!それ聞けて!」
聞きたいことが聞けて、彼女は嬉しそうだった。
彼女のことを聞くと、彼女は、終始私が”コンサルタント”であって実力があることと、結婚に興味が無いことと、上司に噛みついて年収を100万円下げられたが全然気にしていないことを、延々言っていた。
気にしていないなんてあえて言うこと。それが一番コンプレックスになっていることがわかった。
最初は、愚痴でも聞いてやるかってスタンスだったけど、延々と愚痴を言っているので腹が立ってきた。
「嫌な上司っているよね。頭が良いから、そんな上司には決して勝てないから、気にしないようにする。それは一つの方法だけど、多分あなたは本当はとても傷ついてると思いますよ。だって、さっきから、上司の話しばかりだから。」
こんな風に言えば、多分気まずくなる。それで、おれの人生は、このパターンの繰り返しだった。
もう夜中じゃなくなって、とっくに日が昇っている。5時15分。
別れた後、コミニケーションに正解があるとして、このシーンでの正解は何だったのか、考えてみた。
例えば職場で同じ先輩なら、多分多数決でこう言うだろう。
「お前そんな辛気臭い話しええねん。それより、明日お台場何人で行くん?何か服でも買いに行くん?」
悪い空気を一掃するのが正解だ。
思えば、自分がそんな鬱スパイラルトークに陥った時、その時横に居た歴代元カノも、同じことを言ってたと思う。
寝よー。